『Slow Love -Stories-』
僕は「君には君の時間が流れているみたいだね」と言われたことがある。
どんなに周りが焦ってドタバタしていたとしても、僕は急がずにマイペース。
どんなに周りがイライラしていても、僕はいつものペース。
周りからすると、そう感じるらしい。
そんなことを言われても、そうだという実感が僕にあるわけがない。
だって、僕は今の今までそうやって生きてきたのだから。
これからだって、今の生き方を変えるつもりなんてない。
それは周りに合わせるのがイヤって訳じゃない。
ただ、僕は僕らしく過ごしてきただけだと思っている。
それはただ単に、不器用なだけかも知れないけど。
君に恋をして、君と話すようになって…いつしか僕は君と付き合うようになった。
何もかもがまったく自然で、いつの間にかって感じかも知れない。
だけど僕はそれが一番だと思っている。
それが僕らしいような気がするから。
もしかしたらデートらしいデートもしたことがないかも知れない。
いつも当然のように彼女は僕の部屋に来るけれど、何をするわけでもなく、
ただ喋って食事をして帰る。そんな感じだった気もしなくはない。
ただ僕は、のんびりと散歩をすることが好きで、
これといった目的がなくても、ふと散歩に行きたくなる。
もちろん彼女も一緒。
「あれ、気が付いたらもう桜が満開になってる」
『あ、本当だ。こっちの方まで来るのは久しぶりだもんね』
「今日は何となくこっちに来たけど、良かったなぁ」
『本当だね。綺麗』
そんな会話が日常茶飯事。
春になれば、暖かい陽射しとたんぽぽや桜。
夏になれば、初夏の爽やかな風に風鈴や蝉の声。
秋になれば、彼岸花や虫の声、落ち葉。
冬になれば、白い息に薄氷や雪。
そんな季節の移り変わりを二人で楽しみながら、僕達は過ごしていた。
そんな日々が僕には何よりも代えがたい幸せだった。
「えっ!?」
ある日、突然君から言われた衝撃的な一言。
『親に言われて、お見合いすることになったの』
彼女は引き止めて欲しいに決まっている。もちろんその気だったけど、
ふと考えてしまった「僕でいいのだろうか…」と。
僕は思わず無言になってしまった。
『引き止めてくれないんだね』
「ちがっ…」
言葉に詰まる。何て言っていいのか分からない。
『何で「僕がいるから止めろ」って言えないの?もういい!バカっ!!』
彼女は泣きながら部屋を出て行った。
「くそっ!」
僕は握りこぶしを壁にぶつけて、行き場のないこの感情を紛らわそうとする。
でも、いくらぶつけても紛れるわけがない。
「何で『行くな』の一言が言えないんだ」
そう言いながら座り込む。
君のことを好きな気持ちはずっと今も変わってなどいない。
でも正直僕よりもっと君に相応しい人がいるんじゃないかと考えてしまった。
こんな僕の側に何時だって君は側にいてくれたのに…
それが答えだったんじゃないか。
「今頃気付くなんて…」
ポツリと呟いた。
あれから二週間が経った。
当然のことながら、あれから彼女は僕の部屋には来ていない。
もう君がお見合いをしてしまったのかなど知るはずもなく、
君がいつも当たり前のように来ていた僕の部屋も、何だか温かみすらなくなったようだ。
「君に会いたい…」
そう思いながらも、自分がしてしまったことを考えると会えるわけなどなかった。
「久しぶりに散歩にでも行くか」
そう思いながら部屋を出る。
あれから散歩をする気にもなれずに、家にこもってばかりいた。
それなのに、何だか無性に今日は散歩に行きたくなった。
足が向いたその道は、桜が満開になった時に君と来た場所。
緩やかな坂を上りきると、そこから見える桜がとても綺麗なところだ。
さすがにもう桜は散り始めているが、夕陽と入り混じって何とも言えない味わいがあった。
しばらくボーっと眺めていたが時間も時間のため、帰ろうと向きを変えた僕の目に
映し出されたのは、紛れもなく君だった。
僕は立ち止まっていた。
君は俯いたままだった。
『ごめんなさい』
そう呟くように言うと、君は泣きだした。
『…あなたが引き止めてくれなかったのは私のことを考えてないからじゃないって分かっていたけど、
あの時は…それが悲しかったの。でも、親の言うとおりにお見合いして気付いたの
私には、あなたのそのペースが合っているんだって。
ずっと…謝りたかったけれど、あんなことを言ってしまったから会えるわけがないと思っていたけど、
何だかあなたとあの時見た桜をもう一度見たくなって…』
ポロポロと涙を零す君を見て、君が僕と同じ気持ちだったんだと分かった。
「こっちに来いよ」
君を呼ぶ。君は黙って頷くと僕の隣に並んだ。
「ほら、夕陽と桜がとても綺麗だよ。見てごらん」
君の頬に伝う涙を拭いながら、君に言う。
夕陽というよりも夜との狭間といった感じだったけれど、
この瞬間にしか見ることが出来ない、そんな色合いになっていた。
『綺麗…』
ようやく涙が止まった君は、少し目が赤い。
「ごめん」
僕も言う。君は首を横に振る。
「君が好きだから君を引き止めたかったけど、考えてしまった。
もしかしたら僕より相応しい男がいるんじゃないかって。
だけど、こんな僕の側にいてくれることが答えなんだって、後で気付いた。
今まで隣にいてくれたのに、気付いてやれなくて悪かった」
また君は泣きそうになる。
「こんなマイペースな僕だけど、これからも側にいてください」
『ううん…そのマイペースなあなたが好きなの。ありがとう…』
また涙が君の頬を伝う。
僕はその涙を指で拭うと、君にキスをした。
辺りはすっかり暗くなり、空には星が瞬いていた。
「帰ろうか」
そう言うと、君と手を繋ぎ家に向かう。
「夕飯、どうしようか?」
『たまには外食にしない?』
「いいね〜」
また何時もの僕らのペースになった。
僕は「君には君の時間が流れているみたいだね」と言われたことがある。
どんなに周りが焦ってドタバタしていたとしても、僕は急がずにマイペース。
どんなに周りがイライラしていても、僕はいつものペース。
周りからすると、そう感じるらしい。
そんなことを言われても、そうだという実感が僕にあるわけがない。
だって、僕は今の今までそうやって生きてきたのだから。
これからだって、今の生き方を変えるつもりなんてない。
それは周りに合わせるのがイヤって訳じゃない。
ただ、僕は僕らしく過ごしてきただけだと思っている。
それはただ単に、不器用なだけかも知れないけど…
むしろ、それが僕なんだって分かったから。
2003/4/3(THU)〜2003/4/12(SAT)
今回は自作の詩「Slow Love」を題材にしてみました。
しかしながら、全然関係ない話になってしまったような気もします(汗)
恋愛ものはやっぱり苦手な浅羽です(苦笑)話が唐突な気もしますし…。
何となく黒沢さんの誕生日だということで、黒沢さんをイメージして書いた詩からの作品にしてみましたが、
この作品も黒沢さんのイメージになっているかどうかは分かりません(汗)
どの作品でもそうですが、この作品も頭の中でイメージ出来る作品であったらいいですね。
2003/4/12(SAT)
(C)Tsukasa Asaba
photo by 風の引力