『Atlas−Stories−』
僕の家から少しはなれた所に長い並木道がある。
いつも通るあの並木道で、時折何故か急に立ち止まって振り返りたくなる。
振り返ってもそこは、変わらぬ並木道。だけど振り向いた後はいつも同じことを考えてしまう。
「僕の居場所は何処なのだろうか…」
今までを、ただ何となく過ごしてきたような気がしてならない。
叶わぬ夢ばかり追いかけてきたような気がしてならない。
そして「どうせ叶わない」と最初から何もしていない自分―
本当はやってみたら叶ったのかも知れない
そう思いながらも結局は何もしていない。
そんな自分の居場所は本当に此処なのか?
夢を友人に語ったこともあった。でも、笑われた。
『そんなの叶うはずないじゃん』 その一言でもう終わり。
段々自分でも、そう思うようになってしまった。
それ以来誰にも言えなくなっていた。言いたくなくなっていた。
そうして現実的な夢を持たないまま、ただ過ごしている日々。
そんな中、いつの頃からか並木道の途中でふと振り返りたくなる時がある。
そして思うようになる「僕の居場所ってあるのだろうか…」
そんな風に考えごとをしていると、いきなり後ろから
『よお!久しぶり』と声がした。
声の方を向くと、そこには高校の友人がいた。
あいつが大学で東京に行ってからだから、卒業以来会ってなかった気がする。
「あれ、久しぶりだな」
『って言うか、お前何してんの?』
「いや、別に…」
『たまには喫茶店にでも行って話すか』
「そうだな」
昔よく通っていた喫茶店に行くことになった。
「そういやお前、今何してんだ?」
『俺か? 俺は今ゲームソフトを作る会社で働いてる。
いや〜忙しくてな、やっと休暇が取れて久々に帰ってきたところだ』
「ふ〜ん、それはいいことじゃないか。お前昔からゲームを作りたいって言ってたもんな」
『そういうお前は?』
「ん? 僕は…ただのサラリーマンだよ」
思わず言葉を濁す。
『そうか』
何故か二人で一瞬無言になった。
『お前、もう詩とかって書いてないの?』
「えっ?」
『だってお前さ、高校の時書いたりすると見せてくれてただろ?
だからてっきり今でも詩が好きでそういう方面の仕事をしてるんだと思ってさ』
「………」
確かに詩を書くのは好きだった。でも、大学生になってから書かなくなっていた。
一度だけ大学で出来た友人に話したら、思い切り笑われた。
[詩なんて女みてぇ]
その一言が、僕にはショックだったのだ。
「大学から全然書いてないよ」
『そうか…もったいねぇな。俺、お前はプロの詩人になると思っていたんだぞ』
「えっ!?」
『なんか、お前の詩には何かを感じさせるものがあると思ってた』
「そんなことは…」
いきなりの言葉に、正直僕は驚きを隠せなかった。
『俺、あの詩が好きだったな。えーと何だったっけかな…
そうそう確か…「はてしなく」ってやつ』
「あ〜、あれか?しかし良く憶えてるな」
その詩は自分でも好きなものだった。
『あれはな、俺も同じことを考えていたんだ。
だけど、それをどう表現したらいいのかがずっと分からずにいた。
それをお前は、詩で俺の中でモヤモヤしていたことをアッサリと表現してた。
あの時、何だかお前が俺のことを見透かしているような気がしてならなかった。
何かそういう表現が出来るお前が俺は羨ましかったんだ』
「そうだったのか?」
『あぁ、ずっと言わなかったけどな』
「へぇ〜」
『今だから言えることだ』
「…あぁ、そうだな」
『もしまた書くことがあったら、また見せてくれよ。あ、これ俺の携帯とアドレス』
「あ、僕のはこれ。メールするよ。でも詩は書くかどうか分からないけど」
『まぁ、あくまでも書くことがあったらだから』
「確かに(笑)」
僕達は時間を忘れるほど昔の話をし続けた。気が付けば もう3時間も経っていた。
『もうこんな時間か』
「すっかり時間を忘れてたな」
僕達は笑いあった。
『今日は楽しかったよ。ありがとな』
「僕の方こそ楽しかったよ。そのうちにメールするから」
そう言いながら僕達は別々の方向に歩き出した。
「詩か…」
ふと懐かしく思い出してみる。
すると何故か段々何かを書きたいという衝動にかられていた。
その日から、頭の中で色んな言葉がグルグルとしている。
でも当たり前だが、なかなか上手く表現出来ない。
「もう何年も書いてないもんな…」
そう呟きながら床に寝転ぶ。
考えてみたら、あの頃はいつも何かを書いていた気がする。
たいしたことじゃないことから、かなりの本音な部分まで。
暇さえあるとノートを開いて言葉を紡いでいた。
詩を書くことが楽しくて仕方がなかった。
思ったことを上手く話すことが出来ない僕は、いつも何だかスッキリしない感じだった。
「なんでもっと上手く言えないんだろう」とずっと思っていた。
ある時、ふと思いついた言葉をノートに書いてみた。そうしたら何だかスッキリした気がした。
次第にいつの間にか詩を書くことを続けている僕がいた。
普段人には言えない想いを書くことで僕はきっと、自己表現をしているんだと思う。
そして、こんな想いを抱えた人間がいるということを書くことで、
自分が此処で生きていることを残したかったのかも知れない。
でも、色んな想いを書くことできっと僕は自分自身が救われていた気がする。
想いを上手く出すことが出来なかったから、つい抱え込んでいた。
そういった想いを詩という方法で出すことが出来たのだから。
僕の書いた詩は、ずっと誰にも見せてはいなかった。
「詩を書いているなんて知られたら笑われるかな」
「こんなことを考えているのは自分だけかな…」そう思っていたからだ。
だがある日、学校で思いついたことを忘れないようにとメモ帳に書いている時、
後ろから見られていた。それがあいつだった。
僕が後ろからの視線に気付いて「しまった!」と思った時には、もう遅かった。
思わず恥ずかしさと気まずさで固まっていた僕に、あいつが言った言葉は
『お前、いい言葉書くじゃんか』だった。
拍子抜けしていた僕に、あいつが次に言ったのは
『他にもあったら見せてくれ』だった。
僕は誰にも言わない約束で、あいつに詩を見せることにした。
そうでなくても他人にペラペラと話す奴じゃないとは分かっていたけれど、
自分から話してないことを知られることが嫌いな僕にとっては重大なことだった。
その日以来、僕は新しく詩を書くとあいつに見せてきた。
あいつは僕の詩を読むといつも多くは語らなかった。
『よく思いつくよな』
『此処の部分好きだな』
『これを読んでいたら昔のことを思い出した』
そんな一言だけだったけど何か言ってくれていた。
あいつは僕の詩を笑わうことはなかった。
でも、本音も見えなかった。それだけが疑問ではあったけど、僕も言わなかった。
それが今日久しぶりに出会ったことで真実を聞かされて驚いた半面、素直に嬉しく感じた。
本音が見えなかったのは、あいつが僕に気付かれないようにしていたんだと分かった。
それが分かって本当に良かったと思う。
そんな昔のことを思い出しながら ぼんやりとしている僕に、
突然頭の中に言葉がふと浮かんだ。
〈ふとした瞬間に立ち止まり振り返りたくなる〉
ガバッと起き上がり、ノートに書き込む。そしてそのまま一気に書き上げてしまった。
久しぶりのこの感覚に、僕は何だかワクワクしていた。
僕はあいつにメールを出した。
Title:先日はありがとう。 あれから何だか詩を無償に書きたくなって、久々に書いてみたよ。 そうしたら次第にワクワクしていた自分がいたんだ。 あの日偶然会わなかったら、こういう気持ちには多分なっていなかったと思う。 そう考えると、不思議なもんだな。 そういうことで、書いた詩を一緒にメールするよ。 全然書いてなかったから変かも知れないけど、なんかお前に見せたくなってね。 ≪地図≫ ふとした瞬間に立ち止まり振り返りたくなる 僕の居場所は何処にあるのだろうか?と きっと誰もが皆同じことを考えている だけどその答えに辿り着けるのは もしかしたらほんの一握りだけかも知れない もしも僕の居場所を記した地図があるのなら それを信じて歩き出したい この地図は僕のために記されたものだから 久しぶりに書くと何だか照れるな(笑) この前はお前の本音が分かって良かったと思ってる。 今更だけど、ずっと僕の詩を読んでてくれてありがとう。 |
何となくドキドキしながら送信ボタンを押した。何回だろうが人に詩を見せるのは緊張する。
でも今日は何故か気持ちがスッキリしていた。こんな感覚は高校以来かも知れない。
数日後、メールの返事が届いていた。
Title:元気だったか? 先日は久々で本当に楽しかった。 詩、読ませてもらったけど良かったよ。 ブランクはあっても、やっぱりお前の詩は感情表現が上手いと思った。 何だか言葉に出来ることが羨ましくさえ思ったよ。 実はこの前、お前に言いたかったことがあったんだ。 今作っているゲームソフトに入れる曲の歌詞を書いて欲しいんだ。 もちろん俺は本気だぞ。嘘でもこんなことは軽々しく言えない。 新しいゲームの歌を決める時、色んな歌詞を読んでいてふとお前のことを思い出した。 そうしたら何だか懐かしくて、もしまだ詩を書いているようだったら、 見せてもらおうと思った。お前の詩を使ってみるのも良いかも知れないなと思った。 本当はあの日お前に会いに行くつもりで帰っていたんだ。 だけど今はもう書いていないと知って、諦めようかと思ったけれど、 お前の送ってくれた詩を読んだら、やっぱりお前に頼みたくなった。 どうだ、やってみる気はないか? 無理強いはしないから、お前が嫌だというならそれで構わない。 返事を待ってる。 |
驚きのあまり画面に目が釘付けになった。
「ぼ、僕が歌詞を…!??」
一瞬からかっているのかと思ったけれど、どうやらそれもないようだ。
嬉しくないと言えば嘘になるが、事が事だけに動揺を隠せない。
やりたい気持ちが無いわけじゃないけど、僕にこんな重大なことが出来るわけがない。
「素直に断るほうが無難だろう」
そう思う僕の頭の中に浮かんだのは、何故かたまに振り返るあの並木道だった。
−あそこでまた振り返るのかい?−
そう誰かに言われた気がした。
このままでは今までと何も変わらない。
またぼんやりとあの場所で振り返っては、僕の場所は此処なのかと考えるのか?
何も始めてないじゃないか。自分から動き出してないじゃないか。
−やるだけやればいいだろう−
僕は決断した。
Title:この前の返事 突然の内容に、正直驚いた。 僕にはそんな重大なことは出来ないと断ろうかと思った。 だけどこのままでは駄目なような気がした。今までと何も変わらないと思った。 だから、お前の望むようなものは出来ないかも知れないけれどやってみようと思う。 僕に歌詞を書かせてくれ。 |
送信ボタンを押した。
それから数日後、曲の入ったMDと数枚の書類とあいつからの手紙が入った小包が届いた。
ゲームの内容はいわゆるRPGだ。 一緒にストーリーなどの書類を入れておくから参考にして欲しい。 引き受けてくれてありがとう。 |
慣れない作業に戸惑いながらも、僕は歌詞を書き上げた。
何だか得も知れぬ達成感を感じている自分がいた。
《DESTINY》 動き始めた僕の運命 もう誰にも止められない 手にした地図を広げたのなら もう後ろは振り返らない 不安にならないわけじゃない 強くなんてないさ だけど今進まなかったら 一生後悔するだろう 少しずつ少しずつ 歩いてゆけばいいのさ 最初から上手くなど 出来るはずはないのだから どこまでもどこまでも ここに地図がある限り 僕はそこへと向かってゆこう 動き始めた僕の運命 もう誰にも止められない 手にした地図を広げたのなら ただ前だけ進めばいい 次を焦らないわけじゃない 弱気にだってなる だけど今進みたいから 一生懸命ゆくだけさ 少しずつ少しずつ 成長すればいいのさ 最初から出来るなら 面白味がないのだから 果てしなく果てしなく 道は続いているから 今を信じて進んでゆこう 出会い別れる仲間 時に裏切る非情 それも運命だと 言うのならば 何もかも手放して しまいたい時もある だけど今やらなければ 次はないだろう 少しずつ少しずつ 歩いてゆけばいいのさ 最初から上手くなど 出来るはずはないのだから どこまでもどこまでも ここに地図がある限り 僕はそこへと向かってゆこう |
もう一度この作品に目を通した僕は
「しばらく詩を書いてみるか」
なんて思ったら、一気に前が明るくなった気がした。
僕の中にある地図の目的場所はまだ見付からないけれど、僕の地図は一回り大きくなった気がした。
そして僕はあの並木道で振り返ることは無くなった。
文章 : 2003/3/3(MON)〜2003/4/10(WED)
詩(DESTINY): 2003/5/6(TUE)
今回は浅羽の大好きなゴスの曲「Atlas」をお題として書いてみました。
文章自体は書き終わっていながら、今回この文章を書くにあたって詩も一作作ったので余計に時間が掛かってしまいました(汗)
正直話の内容はこうなる予定ではありませんでしたが、内容の主体を詩にすることで「この文章のために詩を書き下ろすのも面白いな」
と思ったので。というよりも、この文章の内容に合いそうな詩が今まで書いたものの中に無いような気がしたのが本音でもあります(笑)
今回最後に書いた「DESTINY」は…いかがでしょう?RPG用ゲームに使えますかね?良く分かりませんが(汗)でも時にはそういった流れ
で書くのも面白かったです。
しかし、会話だらけで文章は長いでかなり迷惑極まりない感じですいません(大汗)
文中にある詩「地図」は本当に一気に書き上げてみました(笑)一応浅羽ではないので、普通に詩として。ですが、これが感情表現が
豊かな詩かどうかは分かりません(汗)ちなみに「はてしなく」は書いてありませんので悪しからず…。
実際に在り得そうな内容かとも思いつつ、そんなに甘い話はないですよね(笑)
2003/5/7(WED)
(C)Tsukasa Asaba
clip art by Studio Blue Moon