『Don't You Know−Stories−』


俺は昔から、見た目で勝手なイメージをされてきた気がする。

部活の副部長をしていた高校時代、皆を仕切らなきゃならねぇもんだから
慣れないことでも必死になってやっていたら、ある日言われた。
「なんかさー、しっかりしてるって言われない?」
…悪いけど、そんなこと今まで言われたことなんてねぇぞ?

ある時は泣く姿を見られたくないからと我慢してこらえていたら言われたのは
「お前ってこんな時でも泣かないなんて、強いな」
本当は俺だって泣きたかったけど、そんな姿お前らになんて恥ずかしくって見せられるか。
と心の中で思っていた。

昔はそんなもんくそくらえと思っていたが、何だか最近はふと考えてしまう。
俺の中身を分かってくれる奴って、どれくらいいるのだろうか?と。
それはきっと、あのことが原因だったと思う。


  −1ヶ月前−

『急でごめんなさい。別れて欲しいの…』
「は!?」
『あなたって、もっとしっかりしている人だと思っていたんだけど、いつもふざけてばかりで…
 もうついていけなくなったの…』
「何だよ、それ」
『…思っていた人とは違ってたってこと』
「それはお前が、俺をイメージでしか見てなかったってことか?」
『…そうかも知れない』
「…………そうか」

付き合って一週間でフラれた。それはまぁいいんだけど、
俺がへこんだのはイメージと違ったから別れると言った、あいつの言葉だった。

イメージのままでないから別れるなんてどういうことだ?
あいつは俺のイメージに恋をしてたってことなのか。
それなら俺はイメージ以外のことをしちゃ駄目だってのか?
それじゃあ俺ってなんなんだ!?

それから、周りの人間が俺のことをどう思っているのかが気になった。
はっきし言って聞きにくいことだったが思い切って何人かに聞いてみた。
「なぁ、俺のイメージってどうよ?」

『う〜ん、そうだな…しっかりしてそうとか?』
『何か、怖いもんなしって感じだよね。にらむと怖いし』
『泣いてるところを見たことがないから、強そうとかそんな感じ』

…いつの間にか俺にはそういったイメージが付いていた。
と言っても高校辺りから言われ続けているものばかりだった。
「やっぱり何もわかっちゃいねぇな、こいつら」
と思いながらもふと考えてみると、俺がそういうイメージになってしまったのは
いつの頃からか俺が弱い部分を誰にも見せないようにしてきたからなのだと気付いた。
「俺のせいなのかよ!?」
思わず愕然。

だからって、イメージと違ったからって何で別れなきゃならねぇんだ?
でもそれはすぐに解決した。
「それだけ俺のイメージが良すぎ…なのか…」
マジでへこんだ。

…そんな出来事があってからというもの、どうも考えてしまうようになってしまった。
まぁ俺のことをイメージでしか見れなかったヤツなんて別れて正解だったんだと
自分のことを慰めてきたけれど、どうもそのことだけはまだ忘れそうにない。


そんな俺にも最近気になるヤツがいる。
俺の後輩なんだが、よく気が付くし、よく笑う。何かいつも笑顔のような気がする。
そんなあいつの顔を見ているうちにいつの間にか段々気になるようになってる俺がいた。

だが、ちょっとした不安もある。
あいつも俺がイメージと違うと分かったら、俺から離れてしまうんじゃないかなんて
たまにふと頭をよぎってしまう。
だけどあいつだけは違うのだと信じたい俺もいる。


そんなある日。
『あの…先輩?』
「ん?何だ?」
後ろからした声があいつだと気付いて、ちょっとドキッとしながら振り向いた。

『ちょっと手伝って欲しいことがあるんですけど…』
「あぁ、いいけど…何すんだ?」
『今、手が離せないから倉庫の荷物を持って来てと頼まれたんですけど、その荷物が重いらしいので
 一緒に取りに行ってほしくて…』
「そっか…にしても、そんな荷物を女の子に頼むなんてどうしようもねぇな」
『今ちょうど誰もいなかったらしくて…誰かに頼んで一緒に行って来てくれと言われたんです。
 でも誰に頼もうかと思っていたら先輩を見つけたからお願いしてみたんです。
 先輩が駄目だったらどうしようかと思っていたんですよ。本当に良かったです』
とニッコリとしながら言う彼女の顔に、思わず自分まで頬が緩みそうになる。

それを顔に出さないようにしながら
「そうか。じゃ、行こうか」
『はい』
二人で倉庫に向かった。


それなりに話をしながら倉庫に着き、荷物を持ってきて無事に荷物を渡した。
[もうちょっと話したかったな…] なんて思いつつ、んなことは言えるはずもないまま
「じゃあ、俺はここで」
なんてそんな素振りを見せないように話す。
『はい、ありがとうございました。
 今まで先輩とほとんど話したことがなかったんですけど、先輩って何か思っていたのと全然
 イメージが違っていて…』
その言葉を聞いた瞬間、俺の中で何かがプツリと切れたような気がした。

「…イメージが違うとなんかあるのか…」
『えっ!?』
突然彼女の肩を掴むと俺の中にある思いが一気にこぼれ出す。

「俺のイメージが思っていたのと違ったら、変なのか?可笑しいのか?
 俺だって人間だ!泣きたい時もあれば、落ち込む時だってある。
 それがイメージと違うなら、俺はそうすることさえ許されないのか!
 お前も俺のイメージが違うと分かったら、俺のことが嫌いになるのか?」
自分でも予想だにしなかったこの行動に、もちろん彼女も驚かないわけがない。
怯えたような目をした彼女に気付いた瞬間、俺はハッと我に返った。

彼女の肩を掴んでいた手を離すと
「…わりぃ。ちょっと俺…どうかしてたわ。悪かったな…」
それだけ言うのが精一杯だった。
俺は彼女を一人置いて歩き出した。


何も考えずにしばらく歩くと、目の前に自動販売機。
何となく落ち着きたくてコーヒーを買った。

プルタブを開けると半分くらいを一気に飲み干し、さっきのことを思い出してため息をこぼした。
「…何やってんだろ、俺。せっかくちゃんと話せたってのに…
 いきなりあんなことを言われて驚かないヤツいるわけねぇのになぁ…
 でも、もしかしたらあいつに言われたことであいつも他のヤツと同じようにイメージが違うと
 分かったら離れちまうような気がして怖かったのかもな…
 なんて、付き合ってもねぇのに何言ってんだろ…
 あんなに怯えた目させたくせに…もう告るどころか何もしねぇ前から玉砕してやんの」

なんて冷めた笑いをしながら落ち着きを取り戻すと、次第に取り残してきたあいつのことが気に掛かる。
何となくためらってしまい何も出来ないでいると遠くから誰かが走ってくる音が聴こえた。
音のする方へ顔を向けると彼女が息を切らせて立ち止まった。

『ハァ……ハァ…… よ、良かった…まだ、いたんですね…』
よほど急いで来たのか、肩で呼吸をしている。
「………………」
何も言えずに座り込んでいる俺に、彼女は話しだす。

『あの…先輩?
 イメージって、どうしても最初は見た目とかで勝手に思ってしまう部分ってあると思うんです。
 でも、それはそれで仕方がないことだと思うんです。最初から上手く話すことなんて出来ないし、
 部署が違ったりで、なかなか話すことが出来ない相手だっているし…
 だけど、イメージと違うところがあるから良い部分ってきっとあるとも思うんです。
 私だって今日先輩と話せて本当に良かったと思ったんですよ。
 そうじゃなかったらきっとまだ先輩のことを誤解したままだったんですから。
 私も何時でも笑っているように思われるし、悩みなんかないように言われるけど、
 実際はコンプレックスばかりだし、「NO」って言えないから嫌なことでもつい引き受けちゃうし、
 取り柄なんてないから、嫌なこと言われてもつい笑って誤魔化しちゃうし……
 だから、あの…』

その言葉を聞いて俺はあることを思い出していた。
それは俺が思っていた彼女のイメージ。

    −イツモ エガオノ ヨウナ キガスル−

俺は自分でイメージのことを気にしていながら、同じことを彼女にしていた。
自分は勝手なイメージをされていたことにイライラしていたくせに、
好きな女のことを同じようにイメージで見ていた。


「なんだ…俺も同じことしてんじゃん」
そう思ったら何だか無性に可笑しくなってきた。
「ふっ……あっはっはっは……」
俺は隣にいる彼女のことなどお構いなしに一人で笑っていた。

彼女はキョトンとしたような顔をしながら
『え??何か私、変なこと言いました…??』
と首をかしげた。
「いや、そうじゃなくて…」
俺は顔を上げると彼女の方を向いた。

「俺さ、最近ちょっとあって、俺の中身を解ってくれてるヤツっているのかな…なんて
 思うようになってた。多分イメージってものに自ら縛られてたのかも知れない。
 だけど、今お前が言ったことで思い出したことがあった。
 自分がイメージに縛られすぎて、今まで気付かずにいたけど
 俺もお前のことをイメージで見てた部分があったことを。
 俺も他のやつらと何も変わらないと解ったら、それを気にしてた自分が何だか無性に
 ばかばかしく思えてな。…さっきは本当に悪かった」
『え…そんな…』
俺の言葉を黙って聞いていた彼女は首を振ると下を向いてしまった。

そんなお前を見ながら俺は思う。
俺のことをイメージでしか見ないで中身を解ろうともしないやつらのことなんて
もうどうでもいいじゃないか。俺はこいつさえ俺の中身をちゃんと見ていてさえくれれば、
それでもう構わない。
俺もこいつの中身をもっと見つめてやろう。俺の前でだけは素顔のお前でいれるように。
こいつだけは本当の俺を見せても離れることはない。そう信じてる。

残りの缶コーヒーを飲み干して、気付かれないように静かに深呼吸をすると
「あのさ、俺、お前に言いたかったことがあるんだけど…」
『えっ?』
と彼女が顔を上げる。
「実は俺…」


もう俺は俺の勝手なイメージになど惑わされない。



2003/4/24(THU)〜2003/6/16(MON)


今回は「Don't You Know」を題材にしてみました。
今回も村上さんの誕生日から、村上さんをイメージして書いた作品が題材です。
こういう作品を書いていながら今更言うのも何なのですが…こういった作品自体が、イメージで書かれたものだな…と(苦笑)

浅羽自身、他人はどういったイメージでいるのか、本当の自分を解ってくれる人はいるのか?と気になることもある人間で。
だけど、ふと思うに何でもイメージのままだったら、それは逆につまらないのかな?なんて。見た目のままの人もいるけれど、
それが絶対ではないわけで。だから新たな一面が見れたことでまたその人のことを知ることが出来る。そういった繰り返しで
人は信頼しあうのかも知れませんね。

浅羽は…多分イメージ通りではないと思いますよ。…色んな意味で(笑)


2003/6/16(MON)

(C)Tsukasa Asaba
photp by F・P・K