『Fly To The Free Sky -Stories-』


 地球がこの世に出来てから、ものすごい時を経て今という時間があるわけで。
 そして、この日本という国には1億3千万もの人々が今という時を過ごしている。

 自分の前世が何だったとか、占いとかあったりするけれど僕はそんなの信じてなどいない。
 前世が何であろうが、今を生きているのは紛れもなく僕なわけで…
 自分と言う人間は自分しかいないのだから、楽しく生きていかなくちゃ損でしょう。
 それが今の僕の持論。

 僕は「規則」と言うものが嫌いだった。
 あれをしては駄目、これをしては駄目。そんな大人が勝手に決めたルールに
 雁字搦めにされて窮屈な思いをするのが嫌だったから。
 だから僕は決められた規則ギリギリの、規則違反寸前のことを見付けては
 誰にも文句を言われないようにするようになった。
 いちいち何だかんだ言われるのが面倒だったと言うのも本音だけど。


 しかし現実は…

 『おい、お前ちゃんと勉強をしてるんだろうな』
 いつも言われるこの言葉に、僕はうんざりしていた。
 「まぁ、それなりに…」
 適当に流すように返事をする。
 『お前は俺の跡取りなんだぞ。何時までもチャラチャラせずに勉強しないと
  後で恥をかくのは俺なんだぞ。あそこの跡継ぎは何も解ってないってな』

 僕の父親は、ぞくに言う会社の社長。
 僕のことを勝手に跡取りにするつもりでずっといるらしい。
 だけど僕にはその気はまったくない。
 それは僕にはやりたいことがあったから。
 そのやりたいことはと言うと…
 ≪歌を歌いたい≫
 そう、僕の夢は歌手。でも、それは父に話したことがない。
 多分話したところで、父から言われることは大体解る。
 でも、そんなことを言われたくらいで諦めるほど単純なわけじゃない。
 いつかはこの想いを言わないといけないことも解っている。
 しかし、まだ言い出せないでいる僕がいた。


 そんなある日、ついにその日は訪れた。

 『お前は何時になったら勉強をするんだ。成績だって下がる一方じゃないか。
  このままでは俺の入っていた大学に合格なんて出来ないな。
  明日から家庭教師でもつけるか。おい、明日からだとお願いしておけ』
 僕の意思などお構いなしに、父が勝手に決め始める。
 そんな勝手な父に僕の我慢は限界に達していた。

 「……悪いけど、僕は父さんの後を継ぐ気はまったくない。
  僕には将来やりたいことがあるんだ」
 『それは何だ』
 「…………僕は歌手になりたいんだ」
 とうとう言ってしまった。鼓動は速まる一方で、息さえ出来ない気分。
 そんな一瞬が何時間にも感じられるような時の中で、僕は父の言葉を待つ。
 『そんななれるか分からないものなんかとっとと諦めて、素直に後を継ぐことを考えろ』
 やはり予想通りの答えが返ってきた。

 僕は腹にグッと力を入れると、今までの想いを話した。
 「僕は、今まで父さんに言われたとおりにしてきたけど、ずっと前から疑問に思ってた。
  僕の人生は僕のものであって、父さんのものではない。
  だから、いくら親であっても父さんには僕の人生の決定権なんてないと思ってる。
  [何も解ってないくせに]きっとそう言いたいだろうってことぐらい解ってるし、
  僕だって実際何一つ解ってなくて、考えが甘いことだと思う。
  でも、何もしないうちに諦めたら、きっと後々後悔する。
  どうせ同じ後悔をするのなら、やることをやって後悔する方がいい。
  こうやって言い出した以上、僕は家を出てく決意ぐらいしてる。
  …もう僕は、父さんの言いなりにはならない」

 僕の言葉に怒りに震えた状態の父が言う。
 『どうしても、家は継がないと言うんだな』
 僕は躊躇うことなくうなづいた。
 「……はい」
 『じゃあ、今すぐ出てけっ!!』
 それだけ言うと、父は背を向けて行ってしまった。

 決意が揺れないうちに、僕は荷物をまとめた。
 あまりに突然のことで母には泣かれたが、
 「ちゃんと連絡するから」とそれだけ告げると僕は家を出て行った。

 [これで良かったのか]という想いもなくはないけれど、
 このまま父の言いなりで後を継いでも、後悔ばかりするであろうという自分が
 僕には目に見えている。僕は何時もそうだったから。
 「でも、もう後に引くことは出来ない」
 その現実を噛み締めて、僕は歩き出すしかなかった。


 −そんな出来事があってから、数年が経った−

 今、僕が立とうとしているのは光が降りそそがれているステージの上。
 そう、僕は夢を叶えることが出来たのだ。

 正直、ここまで来るには本当にがむしゃらな毎日だった。
 諦めた方が良いのかとさえ思った時もあった。
 でも、叶えたいと言う想いと、父に対しての半分意地でここまで来れた気がする。
 「…いよいよだ」
 何だかその日々を懐かしく思い出していると、あっという間だった。
 今の僕は、ここにいることに後悔なんてしていない。

 『開始5分前です!』

 スタッフの声に僕は現実に戻され、舞台袖で深呼吸をし、気合を入れる。
 1曲目の音楽が流れ始めた。会場の熱気と歓声が一気に上がるのが分かる。
 その雰囲気に圧倒されながらも、僕はステージへと歩き出した。
 僕のライブが今ここから始まる。


 ライブも終り、会場ではアンコールの声が。
 歓声に包まれ出てきた僕に、会場の温度が更に増してくる。
 会場のお客さんを全員見るかのように見回した時、僕の視界に入ったのは……
 あの日以来、会うことのなかった父だった。

 [どうして此処に…]
 ちょっと動揺しつつも、ここで止めるわけにはいかない。
 僕は父から目線を離すと、話し始めた。

 「ここまで来るまでに、色々な壁が僕の前に立ち塞がりました。
  何度も諦めようかと思ったこともあったし、何日も悩んだ時もあった。
  でも、[ここで諦めるような夢だったのか]、[そんな程度でしかなかったのか]と
  自分にカツを入れたり、ここで負けてたまるかと言う半分意地もあり
  ここまで来たようにも思います。
  僕の[夢を叶えたい]という想いも強かったかも知れませんが、
  [歌を歌いたい]、[歌が好き]そういった想いが僕を支えていたのかも知れません。
  [大空を自由に羽ばたきたいのなら、時には飛び出す勇気も必要]
  ここまで来るまでの数年のうちに、僕が一番自分自身で感じたことです。
  そうして僕は、今こうして皆さんの前に立つことが出来ました。
  今日は本当にありがとうございます」
 そう言うと、僕はゆっくりとお辞儀をした。

 顔を上げると、父の方に顔を向ける。
 父は黙って僕の方を見ていたが、しばらくすると何も言わずに大きくうなづいた。
 それは、まるで僕のことを認めてくれたかのように思えて仕方がなかった。

 目が潤みそうになっていたのをこらえると
 「それでは、最後の曲です。聴いてください」

 今日のこのライブのことを、僕は一生忘れることなど出来そうにない。



2003/10/5(SUN)〜2003/11/26(WED)


今回は酒井さんをイメージした詩からの作品です。
前作同様、詩から文章を書くつもりではなかったため、まずはどういった内容にするかと言うことで悩み、
その後は話の途中部分で悩み…と、そんなこんなで随分時間が経ってしまいましたが…(苦笑)

今回は詩にある「自分の人生は自分のもの」そういったものを思いながら書いてみました。
しかし、親に自分の想いを告げ家を出る、と言う行為をしたことのない浅羽にとっては、
こんな感じで良いのか微妙な感じではありますが(汗)
それ以前に話の流れ自体が微妙だし…(苦笑)

とにかく大空を羽ばたくにはそれくらいの想いでいてほしいと言う願望(?)を込めて、と言った感じです。


2003/11/26(WED)

(C)Tsukasa Asaba
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