【 サクラチルコロ 】





「確実なものが欲しいの」




夜桜がそろそろ見頃を終え
それはまるで俺たちの恋が終りを告げるかの様に咲き狂った花びらたちは
漆黒に映えるよう、1枚1枚と静かに散り始めていた
お互い何も言わず、ただ手を繋いで散っていく花びらを見入っていた
何かのきっかけを散りゆく花びらに探していたに違いないと今になって思う



そのきっかけを探し出したのであろう君から不意に弾かれた言葉に
ずっと握りしめていたはずの振りほどかれた手に
俺はつなぎ止めることも、返事すらしてやることが出来なかった






『確実なもの』




それさえもあの頃の俺にはなかった
俺が一番欲しかったもの
それはあの時の君が欲しいと言ったもの意味は解っていたけど
俺にはそんな度胸も覚悟もそして確実な未来もなかった
だから




「ごめん……」




それしか言えなかった





「ごめん……」の言葉と同時に彼女は漆黒の桜吹雪の中に消えていった




その後、君とは全く連絡が取れなくなった
俺への思いは全て断ち切ったんだと周りの人に言っていたらしい
そんな事を聞いたのは随分後になってから
幸せにしてやれなかった俺への思いが君をそうさせたのだろう


去年の桜が咲き始めた頃
俺の知らないヤツと確実なものと幸せを手に入れて
元気で暮していると風の便りで聞いた






俺はというと、あの日から成長したのかどうかは俺自身にはわからないが
昔と変らない相変らずな生活をしている
確実なものっていうのは手にしたどうか、それはわからないけど
昔と違うのは先の見えない未来と闘っていた頃の膨大な忙しさはなく
時間と心にもゆとりが出来てきた


心地よい忙しさに充実した日々
むろん、恋だっていくつか経験した
その都度痛手も負ったけど
あの日の君との別れに比べればたいした痛みではないと
後になって思うんだ
それくらい君との別れは俺の脳裏から涙顔の君と漆黒の桜吹雪は離れない



あの頃、こんな気持ちでいたら俺たちは同じ未来を一緒にいただろうかと
満開の桜の木の下で思う



君は、あの日の桜を覚えている
君は、あの日のことを遠い過去だと思っているんだろうか






君が今見上げている桜はあの日よりもずっと綺麗な色が広がっているんだろうか





俺の手にはあの日の温もりはまだ消えていないけど
今はあの時とは違う手の温もりが隣にあって
幸せだと感じながら同じ桜の木を見上げている



「何か考え事?」



桜を見上げたまま何も言わなかった俺に隣の温もりはそって尋ねてきた




「昔の恋を思い出しただけだよ」






遠い遠い日
想い出となったあの春の恋は桜の花びらは少しずつ空を舞う







『地球地図』にて「48084」 を踏み、いただいた作品です。
「桜」というお題で書いてもらいました。

毎度おなじみ(?)の、この作品の即興詩です。

『サクラチルコロ』

「『確実なものが欲しいの』
君から不意に 弾かれた言葉に
返事すら してやることが出来ずに
俺の「ごめん」という 言葉と同時に
君は 漆黒の桜吹雪の中に消えていった

あの日から 成長したのかどうかは
俺自身には わからないけれど
時間と心に ゆとりが出来た今も
涙顔の君と 漆黒の桜吹雪は
俺の脳裏から 離れない

あの日の温もりは 未だ消えてないけれど
今は 違う手の温もりが隣にある
遠い想い出となった あの春の恋
桜の花びらは 少しずつ空を舞う」


ちょっと切ない想い出がありながらも、今隣にいる別の温もり。
そして、もう過去の恋だと言える主人公。
ちょっと肌寒い感じ(切ない想い出)から段々暖かくなってゆく感じ(今現在)が、
ちょうど桜の花が咲く頃のようになっている作品だなぁと思ってみたり。

誰という指定をしないで書いてもらった作品ですが、読んでイメージしたのは酒井さんかな…?
本当は誰をイメージしたのか聞きたいと思いつつも、敢えて聞いていなかったり(笑)

伽央さん、ありがとうございます。


2006/5/1(MON)

(C)Kayo
photo by A-PHOTO